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アライ先生インタビュー(6) 教育は種まき。地道な指導で子どもたちの萌芽をうながす(後編)

水山哲之介さん 横浜市立中学校教諭

(2021.08.31)
 

水山哲之介さん
横浜市立中学校教諭


大学卒業後、2013年横浜市の公立学校教員に採用。担当は社会科。横浜市内の中学校に赴任し、2年目から担任を務める。現在は教師生活9年目を迎え、3年生の担任に加えGIGAスクール構想の担当と、特別支援教育コーディネーターを兼務し、日々の業務に当たっている。

 

味方はきっといる。時には外に目を向けることも必要

 

赴任して2年目となる2020年には、教職員研修の中でReBitメンバーを招いて「多様な性」をテーマにした講演会を開催することに成功しました。

「今の時代、多少の差はあるかもしれませんが、生活指導、進路指導、学習指導をしていれば、生徒たちの抱える背景のひとつにセクシュアリティの問題があることは、多くの先生たちが気づいているはずです。そのため授業で取り上げたいと希望を持っている教職員も少なくありません。しかしノウハウがなかったり、様々な環境が整っていないため先延ばしにしている先生たちも多いのが現状だと思います」

実際、今回の講演会には同僚の教職員だけでなく、学区内の小学校に勤める教職員も数多く参加してくれて、「多様な性」に対しての関心の高さがうかがえたそうです。

「学校内だけで協力者を探すのではなく、外に目を向けて仲間を募るというのも、先に進むためのひとつの方法だと思います。幕末の薩長連合のように、外で仲間を募ることで、その機運を高め、内部の人の重い腰を上げさせることだってできるはずです」

学校には前例踏襲の壁があり、前例がないというだけで新しいことに取り組むハードルが高くなりがちで、それを理由に実行に踏み切れないことも多々あると感じているという水山先生。それにどうやって風穴を開けるのかが、大きな課題のひとつだといいます。

「私の場合はReBitによる講演会という外からの刺激を与える形を取りました。これは例えるならばペリーによる黒船来航のようなものです」

その一方で、水山先生は、日常の授業でも「多様な性」を含め差別問題を取り上げることもあるそうです。

「社会科は他の教科と比べて差別問題を取り上げやすい教科だと思っています。例えば憲法の平等権の授業では、アイヌ民族、ハンセン病、部落差別といった話題に触れられますし、地理の授業ではスコットランドの民族衣装であるキルトに触れ『地域や文化によって当たり前は変わるんだよ』と教えることもできます。」

こうした地道な活動が生徒の心に届くこともあります。

「前任校の生徒が大学に進学して『LGBTについて勉強している』とか、そういった活動に関わっているといった報告をもらうことがあります。教育というのは種まきだと思っています。芽を出さないこともありますが、根気強く土を耕し、種をまき、水と養分を与えれば、きっと芽が出る。それを信じてこれからも頑張りたいと思います」


 

無知で無自覚な差別を断ち切るのも、教師の役目のひとつ

 


学校内で「多様な性」を取り上げる際には気をつけるべきこともあります。

「一番気をつけておくべきなのは、当事者に対しての配慮です。中学生ともなればカミンングアウトしている生徒もいます。安易に取り扱い、まして間違った情報を発してしまうと、その子たちを傷つけかねません。そのためにも教える側がしっかりとした知識を持つこと。これは『多様な性』に限ったことではありませんが、知識も悪気もなく差別してしまうこともあれば、知識があるものの悪気はなく差別してしまうこともあります。また知識もあるうえに悪意があって差別する場合もあります。生徒が知識を持てるようにすることも、その知識を正しく使えるようにすることも、教師にできることのひとつだと思います。もし差別的な言動をしている生徒がいたとして、そこで頭ごなしに怒っても意味はありません。社会的、歴史的な背景を説明したうえで、『だからそれは差別にあたるんだよ』と、生徒たちも納得するよう指導するべきだと思います」

無知で無自覚な差別ほど、知らず知らずのうちに人を傷つけるもの。大学生のとき初めて多くの差別問題を知り、自己嫌悪に陥った経験を持つ水山先生の言葉だからこその説得力があります。

「差別意識は、人間なら誰もが持っているもので、それを完全にゼロにすることは不可能かもしれません。それを受け止めたうえで、その負のスパイラルを堰き止めるのが、私たち教師の重要な役目のひとつであり、それができる存在になりたいと思っています」