ひろさん
認定NPO法人 ReBit
教育事業部マネージャー / 講師
塾講師として16年間勤める。自分のセクシュアリティについて幼少期に悩んでいた経験があり、LGBTQの子どもたちのために何ができるかを考え、ReBitへ入職。「子どもたちに寄り添ってくれるアライ(LGBTQの理解者・支援者・味方)の先生を増やしたい」という気持ちで、自分自身も登壇しているが、若手講師の育成にも力を入れている。
「気がついていないことに、気がつく」ことが第一歩
「LGBTQを含めたすべての子どもがありのままの自分で大人になれる社会の創出」というビジョンを実現するために、ReBitではLGBTQの当事者が講師を勤める出張授業や研修を実施しています。受講いただくのは児童生徒だけでなく、小中高大学の教職員や、教育委員会の指導主事、自治体の職員などさまざまな立場で子どもたちに関わる大人の方々です。今回ご紹介する「教職員向け研修」の大きな目的は、「多様な性について『私たちのこと』として実感すること」、そして「『SOGIインクルーシブな学校環境』を実現するために具体的な計画ができるようになること」の2つです。
研修をしていると「10年以上教師をやっていますが、今まで当事者の子どもと出会ったことがなかった」といったご意見をいただくことがあります。そんな時は「それは出会っていないのではなく、気づいていなかっただけなのかもしれません」とお伝えしています。LGBTQの当事者というと、たとえばテレビの中で見るような人をイメージするかもしれません。しかし、セクシュアリティは外見や行動の特徴から判断できるものではないため、見た目でわかるわけではないのです。だからこそ、本当は身近にいるのに、そのことに気づかないまま「出会っていない」と考えてしまう人も多いのではないでしょうか。
「もしかしたら自分のクラスにも当事者がいるかもしれない」「もしかしたら教え子のあの子が当事者だったかもしれない」ReBitの研修がそんな『もしかしたら』のきっかけになればと思っています。
子どもたちはもちろん、同僚の先生、保護者の方や地域の方々、業者の皆さんなど、学校というのは、さまざまな人たちが出入りをする場所です。たとえ当事者の方と触れ合っている実感がなくても「身近にいるかもしれない」という想定のもと、行動や発言をすることが大切だとReBitは考えています。
とくに子どもたちは、自分自身の性のあり方についてまだうまく認識できていないケースがあります。あるいは「周りと何かちがうな」といった漠然とした違和感はあるものの、それを言語化できないまま、「モヤモヤ」としてしか認識できていないというケースも少なくありません。「必要なときに相談に乗ってくれそうな先生が近くにいる」とわかるだけでも、安心できる子どもがきっといるはずです。気がついていないことに気がつく。先生たちにそんな一歩を踏み出していただくだけでも、学校がSOGIインクルーシブな環境になっていくはずです。
私もLGBTQの当事者ですが、子どもの頃は多様な性に関する情報にアクセスできず、周りの大人にも相談できなかったため、ずっと自分のセクシュアリティについて悩んでいました。ですが、その頃の悩みが今、研修をする上でのヒントになっています。先生方と多様な性についてお話しする中で、「当時は『マイナス』だった過去の自分の経験が、今では誰かの『プラス』になっているな」と感じられる場面も多く、教育現場にアライ(LGBTQの理解者・支援者・味方)の先生が着実に増えていることを日々実感しています。
今日からできる、明日から誰かに伝えられる「ネクストアクション」が見つかる授業
ReBitの教職員研修のテーマは「多様な性と私たち〜SOGIインクルーシブな学校環境づくりに向けて〜」。「SOGI」や「SOGIインクルーシブ」といった言葉を初めて聞くという先生方でもスムーズに内容を理解していただくために、セクシュアリティの基礎知識からスタートします。
全体の流れとしては、以下のような構成となっています。
・グラウンドルールの説明
・講師の自己紹介と団体紹介
・セクシュアリティの基礎知識
・講師自身のライフストーリー
・SOGIインクルーシブな学校環境づくりを考えるワーク
・質疑応答
・まとめ
最初にご説明をする「グラウンドルール」を大切にしています。教職員研修でも子ども向け授業でも、みんなで協力して安心安全な場を作っていただくよう最初にお願いしています。
・撮影、録画、録音はしない
・この場にはさまざまな「ちがい」をもった人がいます。それぞれの「ちがい」を尊重しましょう
・いいたくないことは、いわなくて大丈夫です
など、全部で6つのルールを設けています。
次に、セクシュアリティに関する基礎知識を整理します。
・多様な性とは?
ーセクシュアリティとは
ーSOGIとは
ーLGBTQとは
などの用語についての説明や注意していただきたいことの説明をします。
そして、講師自身のセクシュアリティについてご紹介します。当事者は身近なところにもいることを感じていただくために、具体的な体験を交えてお話します。
研修後半ではワークを行い、先生方ご自身に具体的な対応策などを考えていただきます。
まず「LGBTQの子どもたちが学校生活で直面しやすい困難」について説明をした上で、ワークを始めます。具体的なシチュエーションをあげ、「このような場面に遭遇したとき、あなたはどのような対応や声かけをしますか?」など、先生にとっていつでも起こり得る具体的なシチュエーションを想定したワークを行います。まずは自分で考えていただき、次に2〜3名のグループで話し合っていただきます。その後講師がポイント解説をし、教育現場での実践につなげていきます。
大切なのは、自分だったら?と考えていただくこと。そして、自分の知識や目に見える情報だけで決めつけないでほしい、ということ。女の子なんだから、男の子なんだから。見た目が女の子っぽいから、男の子っぽいから。そういった、目に見えている情報だけで、こうしないといけない、こうあるべきだと決めつけると傷つく子どもがいるかもしれない、ということを体験いただけるワークとなっています。
その上で、先生方に実践いただきたい「ネクストアクション」を考えていただきます。講師からは、具体的にクラスや学年、学校全体で何ができるかをご紹介します。たとえば、以下のような視点で、先生ができる工夫についてお伝えしています。
・やめること/変化させること
・続けること
・新しくやりたいこと
・すぐにできること/個人としてできること
・時間はかかるができること/組織としてできること
「ちがいがある人がいて当たり前」受講いただいた先生方の声
研修を受講いただいた先生方に感想を伺いました。
「明日から実現できる具体的な事例をたくさん教えていただき、また、教員としての心づもりを再確認できたのでとても勉強になりました。」
「カミングアウトしてくれた当事者の対応ばかり考えていましたが、周りにいる児童の中にも当事者がいるかもしれないという視点に気づかされました。ちがいがある人がいて当たり前、自分とちがう要素を持っている人を否定せず、当たり前のように受け入れる児童の育成を目指したいと思いました。」
「今まで出会った生徒の顔を思い浮かべながら聞いていました。自分の意識や習慣を変えていくことが必要だと思いました。」
「基礎知識から学校ですぐにできるアクションまで具体的に教えていただき、本当に多くの学びがありました。またワークを通して自分の思い込みや視野の狭さにも気がつくことができました。これまでも気がついていないだけで、学校で苦しい思いをしている生徒が大勢いたと思います。まずは自分がアライ先生になれるよう、学び続けていきたいと思います。」
「当事者の方から直接お話を伺うことで、実際にどんな配慮を行えばいいのか、気をつけるべき発言や受容の姿勢や態度など、教員として、人として気をつけなければいけない視点に気づかされました。」
先生だからできること、先生にしかできないこと
個で悩む子どもを、1人でも減らすために。個に寛容な子どもを、1人でも増やすために。先生だからできること、先生にしかできないことがあります。
自分が気づいていないかもしれないことに気づいていただくこと。
アライであることを表明いただくこと。
相談を受けたときに否定せず、ありのままを受け止めてあげること。
その上で、「どんな指導をしたらいいのかわからない」「1人ではどうにもできない」「SOGIインクルーシブな学校環境にしたいけれど、その方法がわからない」と感じたら、専門の相談機関にご相談ください。
私たちが出張授業や研修で目指していることは、授業が終わったときからすぐ実践できる「何か」を見つけて帰っていただくこと。その「何か」を明日には「誰か」に伝えていただくことです。
学校など教育現場に関わる方がほんの少し意識を変えていただくこと、その変化を誰かに伝播していただけること、それがSOGIインクルーシブな環境をつくる大きな一歩になると考えています。
相談したい子どもが安心して相談できる環境を。そもそも相談しなくても大丈夫な環境を、教職員の方々とこれからも一緒につくっていければと思います。
この記事を読んでくださっている先生方にも、ReBitの教職員研修をきっかけに、ぜひアライ先生になっていただきたいです。全国のすべての学校において、LGBTQを含めたすべての子どもがありのままで過ごせるよう、SOGIインクルーシブな学校環境づくりを実践してくださる先生方を募集中です。ぜひお気軽にお問い合わせください。
ReBit教育事業部 メールアドレス: education@rebitlgbt.org
教職員研修のお申込はこちら: https://rebitlgbt.org/project/entry