山口実夏子さん(写真左側)
墨田区立小学校教諭
大学卒業後、2012年東京都の小学校教諭に採用され、品川区内の小学校に赴任。1年目から担任として教鞭をとる。同校で6年間勤務後、2018年に墨田区内の小学校に転任。現在は学年主任に加え、校内授業研究と学力向上を担当する研究主任を兼務。写真はプライドパレードの会場で代表理事の藥師と。ReBitとコラボした授業を学校長も高評価
「多様な性」に関する初めての授業は2021年の5月、小学6年生の学活の時間2コマを使って行われました。最初に山口先生が、ReBitが制作した「Ally Teacher’s Tool Kit」使って授業をします。そして、ReBitのメンバーがライフヒストリーを話し、最後に質疑応答をするという三部構成で行われました。
「アニメやテレビ、YouTubeなどでLGBTをテーマにしたものがあり、知識としては知っているものの、それを現実のものとして受け止めていなかった子どもたちも多かったのですが、授業中は冷やかす声もなく本当に真剣に取り組んでいたことが印象に残っています」
当日の授業の様子を校長先生と副校長先生が見学。数ヵ月たった今でも「あの授業は良かった」と称賛してくれるほど評価が高かったそうです。
「当初は保護者に対して『多様な性』をテーマに授業を行うことを事前に知らせておくべきかとも考えたのですが、これまでの人権の授業でも授業内容を事前告知したことがなかったことから告知しませんでした。授業終了後に学級通信で通知したのですが、危惧したような声はありませんでした。授業後は子どもたちからは『自分が知らない世界があり、それを知ることができた』『その人の良いところを知れば、差別にはつながらない』などという声が集まり、私たち大人が思う以上に子どもたちの方が素直に受け止めてくれたようです」
その後、「男女仲良く」をテーマにした道徳の授業があった際には、「男女が仲良くしていたら、周囲からからかわれた」というステレオタイプな話が展開される教材に対して、子どもたちの中から「男女仲良くというレベルではなく、みんなで仲良くの時代だよね」という声が上がり、子どもたちの確かな成長を感じたそうです。
日々の学校生活の中にも「多様な性」を考えるきっかけが
教員生活10年目を迎え、さらなる活躍が期待される山口先生は、小学校で「多様な性」を取り上げることをどう思っているのでしょうか。
「授業で取り上げることも大切ですが、日常的な学校生活の中でも指導できると思っています。お母さんから『男の子なんだから青色のコンパスを買いなさい』と言われた児童から『ぼくはピンクのコンパスがいいのにどうしたらいいの』と相談されたことがありました。そのとき『ピンクだっていいじゃない』と躊躇せずに答えたことがありました。また、別の児童から『男の子だけどネイルやメイクをしたい』という相談があったときも『ネイルやメイクをしても全然変じゃないよ。でも授業中はやめようね』と指導したこともあります。こうした小さな積み重ねも大切ではないでしょうか」
とはいえ、すべての教職員が「多様な性」についての知識があるわけではありません。そこで「多様な性」についての知識と意識の差を少しでも埋めるため、出張授業後に教職員を対象にした勉強会を実施しようと提案しました。
「教職員を対象にすると、日常の業務に追われ、実施が延ばし延ばしになってしまうことが多く、そのあたりも今後の課題のひとつだと思います。『多様な性』については、校内で授業をしたり、研修会を行ったりしたいと思っていても実行に移せない先生も多いかと思います。私自身も実現まで10年かかりました。ただ周囲に共感してくれる人が少しでもいるならば思い切ってやってほしいですね。授業ではなくてもいいと思います。日々の生活で子どもたちと接していく中で、『多様な性』を意識して指導し続ければ、必ず一歩先に進めると思います」