田村鮎美さん
公益財団法人東京都人権啓発センター専門員
東京都出身。大学卒業後、渡仏しファッション史等を学ぶ。帰国後、ファッションフォト専門カメラマンエージェントでマネジメントに従事。2009年より(公財)東京都人権啓発センター専門員。学校向け事業や子ども向けイベント企画など、若年向け啓発事業に携わる。学校のお助け隊!「人権問題体験学習会」とは?
「公益財団法人 東京都人権啓発センター」は、人権に関する教育・啓発及び人権の擁護等の事業を実施し、都民の人権意識の高揚を図ることを目的として活動している、東京都の政策連携団体です。また、東京都が人権啓発のために設置した「東京都人権プラザ」の指定管理者として、その管理運営も行っています。その人権啓発活動の一環として実施している事業の一つに「人権問題体験学習会」があります。
「これはいわゆる“出前授業”のようなもので、学校で児童・生徒たちに人権に関する学習会を体験してもらう事業です。学校の申し込みに基づき、先生方に対して、希望するテーマの学習会をコーディネートしています。実施にかかる費用は当センターが負担しています。これまでの実施事例としては、障害のある人やアイヌの人々、外国人、そしてLGBTをテーマにしたプログラムも設けています。LGBT学習会については、ReBitに多大なご協力をいただいています」
この体験学習会は8年前に立ち上がり、事業化して4年目に、センターの職員からの提案もあって、LGBTに関するプログラムが加わりました。
「実はLGBT学習会については当初、あまり学校からの引き合いがなかったんです。当時はまだ、LGBTってなんだろう、といった状態でした。個々の自治体の教育委員会によっても取り組みにばらつきがあり、学校でLGBTを扱うのはまだ早いのでは、といった声もありました。それが2〜3年前から爆発的に問い合わせが増えてきたんです。まずは教員に対する学習会の依頼が多かったのですが、ここ1〜2年は圧倒的に児童・生徒への学習会の希望が増え、LGBTを扱うフェーズが確実に変わってきたという印象です。きっかけは、やはりオリンピック・パラリンピックだと思います。『多様性と調和』を掲げたオリパラを契機として、多様性を認めていこうよという社会状況が醸成されてきたからでしょう。LGBTに関する取り組みを進めていこうという学校が確実に増えてきています」
先生も必要性を実感 「体験学習会」のこれから
この体験学習会は、児童・生徒、先生方からの反応もおおむね良好で、「継続していきたい」という声が圧倒的に多いといいます。
「どの学年にも必要な学習会だと実感される先生が多いようです。1年度につき各学校1回という取り決めがあるのですが、次年度以降もぜひお願いしたい、と言ってくださる先生が多いです」
田村さん自身、実際に学習会の様子を参観して、その成果をひしひしと感じています。
「この学習会の主たる目的である“啓発”ということについて、その度合いがとても高いと思います。授業の前と後とで、子どもたちの様子の違いがはっきりと分かるんです。子どもたちの心に、講師の言葉がしっかりと届いているなと実感しています」
一方、課題もあります。
「一番の課題は、予算ですかね。毎年、たくさんのお問い合わせをいただくのですが、私たちのマンパワーの問題と、予算の限度があって、ご希望いただいたすべての学校の要望に添えていないのが現状です。需要に見合った供給ができていないわけです。私たちとしても、できればお断りしたくはないので、より多くの学習会を提供できるよう予算を増やしてほしいと、東京都には毎年、お願いしています」
これから新たに取り上げていきたいテーマは?
「一時期はオリパラの影響もあって、障害者スポーツ体験を希望される学校が多かったです。今は、多様性の学習の流れの一環かもしれないのですが、SDGsを挙げてくる先生が多いです。誰ひとり取り残さない共生社会とはどういうことか。いろいろな人がいてあたりまえで、そんないろいろな人がみんな尊重され、自分もまたその中のひとりなんだということが腹落ちするような、そんなプログラムをつくっていきたいです」
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Writer
山縣 真矢(やまがた しんや)
出身地:岡山県倉敷市活動地域:東京都を中心に全国
経歴:1967年生まれ。2002年より東京のプライドパレードの運営に携わる。2019年9月まで「NPO法人東京レインボープライド」共同代表理事を務め、現在は顧問。
現在の職業および活動:編集者・ライター。NPO法人東京レインボープライド顧問。「結婚の自由をすべての人に」訴訟東京二次原告。
座右の銘:笑う門には福来たる。