綿貫公平さん
法政大学・東京経済大学 非常勤講師
大学卒業後、東京都公立中学校教諭として35年間勤務。2007年からは法政大学非常勤講師として進路に関する教育や教職入門、2012年からは東京経済大学等の非常勤講師として教職課程の講義、教育実習を担当し、後進の指導を続ける。その一方で、生きづらさゆえにひきこもってしまった若者たちの社会参加への支援を続ける認定NPO「文化学習協同ネットワーク」の理事としても活動。先生を目指す学生が「多様な性」を自分のこととして考えるように
法政大学の教職入門の授業は半期14回。毎期の最後に、学生が「どのテーマの授業が印象に残ったのか」アンケートを取っているそうです。今年度(2021年度)前期、最も関心を集めたのは部活動をテーマにした「部活動をどうする?」。その次が「多様な性ってなんだろう?」と題したReBitによる出張授業の回だったそうです。
ちなみに学生からは以下のようなコメントが寄せられています。
●『あなたはあなたのままでいいんだよ』と言葉が私の胸にとても響きました。より一層教師になりたいという気持ちが強くなりました。
●「普通って何?」と、「普通」ということに違和感を持てる生徒を育てたいと感じた。
●「私は高校生のとき、自分はバイセクシュアルではないかと自問していた。ジェンダーやセクシュアリティのことを他人事と思えず、今回の授業が楽しみだった。授業を受けてゆっくり自分の性や他人の性を理解していけば良いのだと思えた。
綿貫先生は、ここ数年、学生たちの中に変化の兆しが芽生えていることを感じているそうです。
「高校時代に『多様な性』について勉強している学生が増えています。なかには高校生のときReBitの出張授業を受けたという生徒もいました」
2015年に文部科学省が「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について、教職員の理解を促進することを目的とした教職員向けの周知資料を作成し公表する」とした通知が少なからず影響しているのかもしれません。
「これから教員になろうとしている学生が、『性の多様性』を自分の課題としてとらえるようになっているのは、本当にうれしいことです。気になっている生徒に声も掛けられなかった私の現役時代とは歴然とした違いがあり、これからが非常に楽しみです」
学校内にも、ジェンダーによるしばりからの脱却を図ろうとする動き
「長年、公立学校で教員を務めてきた私がいうのもおかしな話ですが、日本の学校生活は性別意識を助長している面があります」
男女別の出席簿、男女別の制服。掲示物の男女別掲示、入学式・卒業式などの座席の男女別、学用品の男女色分け購入など、あらゆる場面で男と女とで二分してきました。
「最近はそんな既存のジェンダーによるしばりから脱却を図ろうという教師や学校も少しずつ増えているのも事実です。人はえてして『自分の経験=普通』と思いがちで、それをベースに判断する傾向が強いものです。そうした常識や普通を崩すのが、私たち教師の役目であり、ReBitによる出張授業もそのひとつの機会だと思っています」
今年で大学の定年を迎え、後進に道を譲る予定だという綿貫先生。幸いにも先生がやってきた路線を引き継いでくださる方がいるそうです。
「とはいえ懸念がないわけでありません。現在、ダイバーシティに取り組んでいる大学も増えつつありますが、多くは身体的な障害者をどう支えるか、ということに留まっており、その先になかなか進んでいない感じを受けます。『普通』ではない自分に悩み、居場所を探している学生はたくさんいます。そうした学生が気軽に相談できる窓口を大学としてつくるべきだと思います。『この学校は自分を受け止めてくれる』ということになれば、学生にとっても、そして大学にとっても、とても有意義なことだと思います。まず“理解ある教師を育てる”。大学がそんな場になってくれることを心から願っています」