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先生集合!なんでも相談会(後編)

(2022.06.30)
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2022年6月19日、オンラインイベント「先生集合!なんでも相談会」を開催しました。多様な性に関して普段から様々な配慮をしている先生やこれから何か取り組みたい先生などが、不安なことを相談したり、日ごろ思っていることをシェアしたりする場になりました。この記事では、実際にあった相談などを匿名化してまとめました。

ーーー同僚に「LGBTQなんているわけない」という人がいます。そうした環境でどのように働きかけたら、周囲の理解が得られるのでしょうか?

「LGBTQなんているわけない」という発言が、どういう場面で出てくるのかによって、必要な対応が変わってくると思います。たとえば、じっくり対話できる場面での発言だったのか、あるいは通りすがりの立ち話だったのか。また、そういった発言が子どものいる前であったのか、大人だけの状況だったのか。大人だけだったとしても、自分と相手だけの一対一だったのか、他の職員もいたのかなど、実際にはさまざまな状況があると思います。

自分と相手だけであれば、自分がどう受け止めてどう返すかという話で済むかもしれませんが、もし周囲にそのやり取りを聞いている人がいる場合、その人の当事者性が高いがために「自分の存在がないものにされている」と傷つく可能性もあります。「あなたがいること、ちゃんとわかっているよ!」というメッセージを伝えるために、近くで聞いている人がいる時には、ネガティブな発言をはっきり否定する必要が出てくると思います。

具体的に周囲に働きかける際には、ぜひReBitの教材Ally Teacher’s Tool Kit(ATTK)を活用していただきたいと思います。ATTKには教職員向けのハンドブックが入っているのですが、そこにはReBitスタッフの子どもの頃の写真が載っています。「この中でセクシュアルマイノリティは誰でしょう?」というクイズになっているのですが、種明かしすると、全員がセクシュアルマイノリティなんですね。「LGBTQなんているわけない」という方には、このクイズで「見た目ではわからない」「見えていない=いない、ということではない」といったことをまず体感していただくと、「もしかしたら自分が今までに出会ってきた子どもたちの中にもLGBTQの子どもがいたのかもしれない」という気づきにつながりやすくなると思います。気軽に手に取って読んでもらえそうな資料を使って、同僚の方に地道に情報提供をしていただくのがいいのかなと思います。

ーーー自己肯定感が持てないことが要因となってか、リストカットをしている生徒がいます。本人には「親には自分のセクシュアリティを言ってほしくない」という希望があるため、現状では保護者と連携できていません。私たちもいつその生徒に命の危険があるかと、とても心配しています。もちろんアウティングをすることは許されませんが、こうした緊急度の高いケースにはどのように対応すべきでしょうか?

まず、アウティングは絶対にいけないということを、現場の先生方が強く認識してくださっていることはとても大切ですし、大変心強く思います。ReBitの教職員研修でもアウティングをしてはいけないことはお伝えしています。ただし、命の危険に迫られている場合や、欠席が続き進路への影響があるといった場合には、教職員同士や保護者との情報共有が必要になることもあるとお伝えしています。

たとえば、性別違和があり、自認する性に合った制服に変えたいとなると、制服自体を買い替える必要が出てくるため、保護者の協力が必要になります。ただそこで、ジャージで通うことである程度困りごとが解消できるのであれば、学校の方針変更で済むことも考えられます。また、性別を意識させられることがつらいという生徒にとっては、制服、名簿、席順などを男女混合にしていけるのであれば、その生徒が抱えるストレスや傷つきがかなり軽減されるかもしれません。保護者に伝えるかどうかという議論と並行して、リストカットなど自分を傷つけてしてしまうほどに生徒を追い込まないような環境づくりが、学校としてまだできるのではないかということを議論していただくといいかもしれません。

その上で、学校が頑張っただけではリストカット等の心配な事象が止まらないという場合は、家庭での対応や保護者の関わりが大切になってきますので、その時点で保護者に説明する必要が出てきます。その際、伝え方にはいろいろな段階があり、選ぶことができるんですね。たとえば、「この子はトランスジェンダーなんです」と明示的に言う代わりに「ご家庭での『女の子だから〜』などといった性別の押しつけがストレスになっているようなんですね。学校でも、どの生徒に対しても性別の押しつけをしないようにしているので、ご家庭でもご協力いただけるとありがたいです。」といったように、表現を和らげて伝えることもできます。保護者の方が安心して事実を受け止めるサポートができると、保護者の方自身もその子と向き合いやすくなると思います。説明の仕方にもバリエーションがあることを、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。

また、学校として、保護者への連絡が必要かどうかの判断基準を教職員間で共有しておくことも大切です。特に希死念慮に関しては、その状況をどうアセスメントするかといったことに関する方針が立っていると、現場の先生方は対応しやすくなると思います。具体例として、宮城県自死対策推進センターの自死アセスメントシートというものがあります。具体的にどんなリスクがあるか、このアセスメントシートを元に「軽度」「中度」「高度」「重度」と緊急度を判断できる仕組みです。「私が判断した」とか「私の見立てが誤った」となると現場の先生方にとっても心理的負荷が高いですが、「こういう指標で判断しましょう」という基準が教育委員会や人権擁護の部署等から開示されていると、アセスメントしやすくなる側面があると思います。たとえば、「アウティングのリスクがあったとしても、自死のリスクが『高度』あるいは『重度』と判断された時には、セクシュアリティのことも共有する」という判断基準があれば、その段階になったら情報共有を検討するんだなということがわかります。逆に「『軽度』『中度』の時には一旦見守りましょう、その代わり『見守りの体制』をこういうふうに強化しましょう」という話ができると思います。

また、希死念慮の背景となっている事象を解決するために、セクシュアリティを伝えたほうがいいと思うんだよねということを、子どもの年齢や状況によりますが、本人に相談しながら検討することもできると言われています。「セクシュアリティを伝えることで解決できるなら先生から言ってください」と言われることもありますし、「それでもバレるのが怖いから伝えないでください」という場合には、セクシュアリティを伝える代わりに「~はしないでください」といった伝え方も検討できます。さらに、保護者の方の受け止めが難しい場合を想定して、つながれる自助団体などの情報を用意しておき、保護者に伝える際にセットで渡せる準備があると、保護者の方も安心すると思います。

生徒に関する情報は、学年団、あるいは管理職、養護教諭、スクールカウンセラーなどと共有することがあると思いますが、担任の先生が生徒から相談を受けた際に、学校側の情報共有のルールを先に説明しておくと誠実な対応になると思います。「学校側ではこういうルールになっているんだけど、このルールに則って、あなたが今日してくれた話を〇〇先生、△△先生と□□先生に報告という形で伝えていいですか?」と相談の度に生徒に確認します。もし生徒から「この部分は伝えてもいいけど、この部分は伝えないでほしい」という要望があれば、できる限り尊重します。生徒も「〇〇先生は報告を受けているんだな」ということがわかると、担任の先生以外にも相談しやすくなったりして、それがいい方向につながる場合もあります。そういった意味で、共有範囲を相談者に対してあらかじめ開示しておくといいかもしれませんね。

ライター:認定NPO法人ReBit