有明中の「リスペクト」に込める思い
道徳地区公開講座では、1時間目に「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」や「性の多様性」をテーマとした道徳授業を、各学年で実施。2時間目には全校生徒・教職員・保護者が集い、「ちがいを認め合う学校づくり」を掲げたシンポジウムを開催しました。当日は想定を上回る100名近くの保護者・地域住民が参観し、関心の高さが窺えました。有明中の学校紹介リーフレットには、当校の大切にする「リスペクト」が大きく掲げられています。
江東区で2025年に制定された「江東区こどもの権利に関する条例」などの背景もあり、有明中では生徒一人一人の権利を保障する教育を推進しています。その際、大切にしているのが「社会モデル」の考え方です。「社会モデル」とは、生活上の困難の原因は「生徒個人の問題」ではなく「学校や環境の側にあるバリア」にうまれるものと捉え、指導や体制の工夫で学びの障害を取り除いていこうとすることをいいます。
同校では前年度に、ReBitによる「性の多様性から多様性へ」をテーマとした出張授業を実施。「生徒への指導にとどめず、家庭・地域や学校環境の整備へ広げたい」という西川校長先生の強い思いのもと、新年度から計画を進め、本取組に結実しました。
「思い込み」に関する段階的な学び
有明中が大切にする「リスペクト」の対極にあるのは、普段の生活の中で、「男だから〇〇」「女だから〇〇」「普通はこうだ」と、相手を決めつける言動です。そしてその「当たり前」はときに誰かを制限し、苦しめる要因になります。一人一人のちがいをなくすのではなく、ちがいがあることを前提に「あなたはあなたのままで大切な存在」だと認めること。それが有明中の「リスペクト」です。それに関連して、1時間目の道徳の時間では、「思い込み」や「多様な性のあり方」に関連する教材を活用して、各学年で授業が行われました。
1年生
「ソウタとミオ」|日本文教出版『中学道徳 あすを生きる1』より
2年生
「アンコンシャスバイアスを知ろう!気づこう!」|栃木県「性別に関するアンコンシャス・バイアス学習教材」より
3年生
「多様な性ってなんだろう?」|認定NPO法人ReBit「Ally Teacher’s Tool Kit:中学校で授業しよう編」より
特別支援学級
「いろいろな性ってなんだろう?」|認定NPO法人ReBit「Ally Teacher’s Tool Kit:小学校高学年で授業しよう編」より
「ソウタとミオ」|日本文教出版『中学道徳 あすを生きる1』より
2年生
「アンコンシャスバイアスを知ろう!気づこう!」|栃木県「性別に関するアンコンシャス・バイアス学習教材」より
3年生
「多様な性ってなんだろう?」|認定NPO法人ReBit「Ally Teacher’s Tool Kit:中学校で授業しよう編」より
特別支援学級
「いろいろな性ってなんだろう?」|認定NPO法人ReBit「Ally Teacher’s Tool Kit:小学校高学年で授業しよう編」より
1年生では思い込みから生じる友人への誤解を、2年生では性別に関する無意識の偏見を、3年生ではLGBTQ当事者のライフストーリーから性の多様性を主題とする教材を使用しました。また、特別支援学級では、イラストや動画を通して、性の多様性や一人一人のちがいを尊重することについて考えました。
学年や学級の実態に応じた教材を活用し、身近な人間関係や思い込みから性の多様性に関する人権課題へと学びを広げることで、生徒一人一人が自身の無意識の偏見に気づき、互いのちがいを尊重することについて考えられるよう工夫しました。
学校全体で対話できるリスペクトの土壌
2時間目には、生徒・先生・保護者が体育館に集まりシンポジウムを行いました。テーマは「#リスペクトから始まる学校づくり ~ちがいを認め合い、誰もが自分らしく安心して過ごせる有明中へ~」。登壇者は、代表生徒2名・保護者・担任の先生・ReBitの5名で、ファシリテーターは西川校長先生が行いました。
シンポジウムの前半では、各学年で1時間目の授業の振り返りを全体で共有しました。登壇したある生徒さんは「決めつけについて班のメンバーで話し合った際、『この年齢/性別だから〇〇だよね』という思いを、一人一人が無意識のうちにもっていることがわかり、まずは自分でそれに気づくことが大切だと感じた」と話しました。また、別の生徒さんは「性別で相手を見るのではなく、その人の意思を大事にしたい。一人一人を尊重することで自分も相手も心地よくいられることを大切にしていきたい」との思いを共有しました。
登壇者の発言を受け、ファシリテーターを務める西川校長先生は、「今度は皆さんの思いを言葉にしてみましょう」と、以下の2つの問いについて会場全体の対話を促しました。
対話の全体共有では、ある1年生から「(自分は醤油をかけるけれど)目玉焼きにソースをかける人を『ありえない』と否定するのではなく、『それもいいね!』とお互いのちがいを前のめりで認め合いたい」というユニークかつ本質的な意見も飛び出しました。自分の考えや価値観を安心して口にできる心理的安全性が感じられ、学校の合言葉である「リスペクト」がお題目ではなく、校内に根づいているからこその場面でした。
環境整備に動き始めた先生たち
これから大切にしたいこと・できることについて生徒が対話した後、シンポジウム後半で西川先生は、「だれもが安心して過ごせる学校づくりのために、生徒の皆さんだけでなく、先生も有明中のきまりや環境を見直していく必要があります」と切り出しました。有明中では、夏季休業中にReBitの教職員研修を行いました。その中で、性の多様性を包摂する学校環境づくりについて、すでにできていること/これから取り組むことは何かを話し合いました。そこでの検討をもとに、これから先生たちが取り組んでいく学校環境づくりの方針を、西川先生は生徒と保護者に発信していきます。
例えば、卒業式の礼法指導における「男子は手をグーにして、女子は両手を重ねて座る」といった指導の見直しや、教員・来賓用トイレを「誰でもトイレ」として開放する試みなど、不要な男女分けを減らし、対応可能な選択肢を整備することに向けて、有明中では検討を始めています。
研修の際、礼法指導の見直しを提案した先生は、「進路指導や社会のマナーを考えると、学校内だけを変えてよいのか迷いもある」と研修後に本音を話してくれました。卒業後の生徒の人生を見据えるからこそ生じる葛藤です。しかし、だからこそ同校では、校内環境の見直しに留まらず、保護者や地域を巻き込みながら多様性を包摂する学校づくりを推進していくことに、大きな意味があると考えています。
ReBitからは「性の多様性を学ぶ意味」をテーマにお話ししました。
誰がどのような性のあり方をもっているかは、外見では分かりづらく、周りが勝手に判断することはできないし、してはいけないことです。そのため「性の多様性を学ぶこと」を通じて、見た目でわからないちがいを意識して想像し、それをリスペクトしようとする感度を高めることができます。
また、ReBitの調査によれば、LGBTQの中高生の約9割が学校で困りごとを感じている一方、担任の先生に安心して相談できるLGBTQの中高生はその5%に留まります。「困っている子から相談されたら親身に対応する」という個別対応にとどまらず、「そもそも相談をせずとも、誰もが当たり前に安心して過ごせる学校環境をつくる」——この発想の転換こそが、いま学校現場に求められています。
ここでいう「環境」には、「言葉遣い」や「ルール」が含まれています。例えば、クラスや部活でルールを話し合うとき、その男女分けは果たして本当に必要なものか、考えてみることができます。また、友達と恋バナするとき、みんなが恋愛をするものだ、異性を好きになるものだと、決めつけているところはないかなと振り返ってみることもできるでしょう。
先生も、生徒・保護者の皆さんも、学校の環境づくりやその見直しを通じて、有明中のリスペクトをさらに高めていってほしいと、ReBitは考えています。
リスペクトは一人の人間に向き合うこと
シンポジウムの終わりには、「誰もが安心して過ごせる学校をつくる」ために、それぞれの立場でできることを共有しました。
松江先生
授業の中で「アンコンシャスバイアスに気づけないと世界が小さくなる」との生徒の発言が印象に残りました。私も生徒との関わりの中で一人一人の可能性を広げられるよう、指導の中に無意識の思い込みがないか、常に意識していきたいです。
保護者の佐合さん
中学生の表に見える言動だけで判断せず、その背景にある思いに視線を向けられる一人の大人として関わっていきたいです。親子だから分かり合えるわけではありません。一人の人間同士、お互いをリスペクトし合える関係を大切に築いていきたいです。
授業の中で「アンコンシャスバイアスに気づけないと世界が小さくなる」との生徒の発言が印象に残りました。私も生徒との関わりの中で一人一人の可能性を広げられるよう、指導の中に無意識の思い込みがないか、常に意識していきたいです。
保護者の佐合さん
中学生の表に見える言動だけで判断せず、その背景にある思いに視線を向けられる一人の大人として関わっていきたいです。親子だから分かり合えるわけではありません。一人の人間同士、お互いをリスペクトし合える関係を大切に築いていきたいです。
松江先生と保護者の方のお話に共通していたのは、「『思い込み』に気づき、それを脱して相手にリスペクトの気持ちを向けることで、一人の人間同士として、子どもとの関係を築いていきたい」という思いだったように思います。
生徒の側に変化を求めるのではなく、まずは大人の側が子どもの安心して学べる環境を整えること、「自分の中にある思い込みに気づき、それを変えていく」という望ましい行動を態度で子どもに教えていくこと、そうした有明中に関わる大人としての思いが伝わってきたように感じました。
今回のシンポジウムについて、西川校長先生は、以下のような感想を伝えてくださいました。
西川校長先生
「それもいいね」——目玉焼きにかけるもののちがいについての会話の中で、生徒が語ったこの言葉が心に残っています。「相手を思い込みで決めつけず、一人の人として尊重する」、その姿勢を生徒に求めるだけでなく、私たち大人も行動で示していきたいと思います。
誰かが安心できないでいるとき、その人に変わることを求める前に、学校のきまりや日々の関わり方に見直すべき点はないかを問い直すことが大切です。今回の学びを一日限りの行事で終わらせず、生徒の声を丁寧に聴き、保護者や地域の皆様とも対話を重ねながら、誰もが自分らしく安心して過ごせる学校づくりを進めてまいります。
「それもいいね」——目玉焼きにかけるもののちがいについての会話の中で、生徒が語ったこの言葉が心に残っています。「相手を思い込みで決めつけず、一人の人として尊重する」、その姿勢を生徒に求めるだけでなく、私たち大人も行動で示していきたいと思います。
誰かが安心できないでいるとき、その人に変わることを求める前に、学校のきまりや日々の関わり方に見直すべき点はないかを問い直すことが大切です。今回の学びを一日限りの行事で終わらせず、生徒の声を丁寧に聴き、保護者や地域の皆様とも対話を重ねながら、誰もが自分らしく安心して過ごせる学校づくりを進めてまいります。
ReBitスタッフより
参観していた保護者の方に感想を伺うと、「今日のシンポジウムを前に、性の多様性について、先日子どもと話してみました。大人が思っている以上に、子どもは『人には多様な面があって、それは尊重されるべきものだ』という思いが強く、感心しました。授業の感想を、この後帰ってから話してみたいと思います」と話してくれました。学校での学びが家庭や地域に広がっていく過程を目の当たりにしたように感じました。「通称 SOGI理解増進法」において、学校設置者には、「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は 啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保等 」を推進することが努力義務として明記されています。「関係者の協力を得る」とは、教育活動に対して単に協力や理解を要請することではなく、子どもを中心に据え、学校が主体となって、保護者・地域と「互いを尊重する視線」を共有していくことなのだと、今回の取材を通じて強く感じました。有明中の取組は「多様性を包摂する学校づくり」の先導的な実践モデルと言えるのではないでしょうか。
有明中の皆さん、素敵な授業をありがとうございました!
