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実践レポート|“Ally Teacher’s Tool Kit” を活用した小学校 道徳の授業実践

(2026.11.05)
 2026年9月、認定NPO法人ReBitは、LGBTQや性の多様性に関する授業づくりを支援する教材キット「Ally Teacher’s Tool Kit:小学校で授業しよう編」(以下、ATTK)をリニューアル(詳細はこちら)
 今回は、ATTKを活用して行われた東村山市立化成小学校の道徳授業を取材しました。授業者である宮澤弘道先生は、長年「人権」を教師の軸に据えて実践を重ねてきた先生です。子どもたちの多様な声が響き合った授業の様子をお届けします。

先生の思い|「差別を生まないために、まず知ることから」


 毎週発行される5年2組の学級通信の冒頭には、宮澤先生から子どもたちや保護者に向けたメッセージが綴られています。そこに一貫して流れているのは、「人権」を教育活動の根幹に置く姿勢です。

企業に勤めた後、教職に就いた際の最初の感想は「なんてレベルの高い仕事なのだろう」でした。子どもに関わる「最善の判断」を「瞬時に」行わなくてはいけません。そこで、ぶれない「指導のものさし」をもつことにしました。その基準は「人権」です。人権を尊重する社会を創り、互いを思いやれる優しい環境を築けるよう、このものさしを大切に子どもと向き合っていきたいです。(一部省略して記載)

道徳に限らず日常の様々な場面で人権の大切さを伝え続ける宮澤先生に、その強い思いの背景を伺いました。


――人権を教育活動の軸に据える背景には、どのような思いがありますか?


教員になる前、ボランティアとして東ティモールに滞在してました。内戦下にあったため、戦争と死を身近なこととして体験しました。この時、「戦争は最大の人権侵害である」と痛感し、教員になってからは人権をすべての起点に考えるようになりました。そのベースさえあれば、教室に多様な子どもがいることは「大変さ」ではなく「にぎやかで楽しい豊かさ」に変わります。目の前の子どもたちが、いつかよりよい社会を創る一員になってほしい――そんな願いを込めて教壇に立っています。

――性の多様性を扱う授業にあたり、どのような願いを込めましたか?


学校で人権課題を扱う際、「寝た子を起こすな(「知らない人にわざわざ差別の存在を知らせる必要はなく、そっと放置しておけば自然に解決するという考え)」と言われることがあります。しかし、知らないと無自覚の内に差別に加担してしまうことがあります。だからこそ、普段は光が当たりにくいテーマに意識的にスポットライトを当て、「まずは正しく知ること」から始めてほしいという思いで授業に臨みました。

授業の流れ|いろいろな性から、多様性へ

 授業はATTK付属の学習指導案と授業スライドに沿って行われました。
 まずは安心して参加できる授業をともにつくるための「フロアルール」を確認。導入では「おにぎり」の例を挙げながら、人にも様々なちがいがあることへと意識を焦点化していきます。和やかな雰囲気の中、「いろいろな性ってなんだろう?『ちがい』を大切にするには?」のテーマを共有して、授業がスタートしました。


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🔼授業スライドの一例|ATTK申込後、Power Pointとしてダウンロードできます

 次に、子どもたちはATTKの教材動画を視聴しました。性の多様性に関する基礎知識とともに、「珠莉菜さん(トランスジェンダー女性)」「はなさん(レズビアン)」のライフストーリーが紹介されます。直前までにぎやかだった教室が一転、子どもたちは真剣な眼差しで画面に見入っていました。「LGBTQの人は約10人に1人」との解説が流れると、「意外と多いんだ…」という声が上がります。宮澤先生は「そうだね、とても身近なことなんだよ」とその気づきを丁寧に拾い上げ、深めていきました。

 動画視聴後、宮澤先生はワークシートを配布し、「じゅりなさんやはなさんのように、同じように困っているLGBTQの友達がいたら、あなたはどのように考え、どんなことができますか」と、問いを投げかけました。

 積極的に手を挙げる子どもたちからは、様々な声があがりました。
「自分はこの人が〇〇だから嫌いになったりはしないし、ありのままのあなたが好きと言いたい」

「個性を押し殺してしまうより、一人一人個性が発揮されることは逆によいことだと思う」

「(一人一人ちがいがあることは当たり前だから)どうも思わないよと伝えたい」

「話を聴いて、どうしたらよいか一緒に考えたり、相談してくれた友達がよかったら家の人や先生に一緒に話したりする。LGBTQであることを否定する人がいたら、説明する」

まず話を聴く。その子に「君の居場所はちゃんとある、深く悩まなくていいよ」と伝える

宮澤先生は、子どもたちの発言の核となる思いを受け止め、板書していきます。


 最後に、宮澤先生は「性のあり方の他にも、好き嫌いや国籍、障害など様々なちがいがあるよね」と伝えたうえで、「自分と相手のちがいを大切にするために、どんなことが大切でしょうか。また、あなたはどんなことができますか」と振り返りを促しました。子どもたちの感想の一部を紹介します。





 授業後、授業の感想を伺うと、宮澤先生は次のように話してくれました。
人権を考える授業の教材に大切なのは、個別具体性(その当事者のリアルな姿)が子どもに届くことです。その意味で、ATTKの動画では当事者の顔や表情が見え、実体験に基づく生の声や思いを直接聴くことができる点がよかったです。
性のあり方は多様であることを子どもたちは知りました。これから社会の理解が進み、LGBTQという分類自体もなくなって、人権課題が解決していくことを願っています。

ReBitスタッフより


 授業終了後、何人かの子どもたちがスタッフのもとへ駆け寄ってくれました。「動画で当事者を受け止めていた人の姿が恰好よかった」「自分の考えばかりを押し付けるのは、相手に窮屈な思いをさせてしまうから、相手をコントロールしないようにしたい」など、溢れ出る思いを自分の言葉で伝えてくれたのが印象的でした。当事者自身の思いや経験に加えて、寄り添う「アライ(理解者・支援者)」のロールモデルに触れたことで、子どもたちは「他者へのしなやかな寄り添い方」について思いを深めていたのだなと感じました。
 子どもの学習感想にあった「認め合える社会になっていないのが悲しい」という切実な言葉には、胸が締まる思いがしました。しかし同時に、学級全体で思いを共有し合い、「『少数』であることは決して『間違い』ではない」という確信が教室全体を満たしていく様子に、大きな頼もしさを覚えました。 宮澤先生の「まずは知ることが大事」という言葉の重みを、子どもたちの姿を通して改めて実感した一日でした。
 化成小のみなさん、宮澤先生、素敵な授業をありがとうございました!

*ATTKリニューアルの詳細はこちら