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「みんなで」取り組むことで、学校の景色が変わった。江東区立第三砂町小学校が歩んだ、SOGIEインクルーシブな環境づくりへの半年間(前編)

(2026.03.18)
「LGBTQを含めたすべての子どもがありのままで大人になれる社会の創出」。そのビジョンの実現のため、ReBitでは児童生徒向けの出張授業や教職員向け研修を実施しています。

今回取材させていただいたのは、ReBitが教職員研修を行い、その後先生たちが児童へ「多様な性」に関する授業を実施するまで、半年間にわたり伴走させていただいた江東区立第三砂町小学校(以下、三砂小)の先生たちです。

三砂小では、多様な性に関連する書籍を集めた「にじいろ本だな」が設置されていたり、先生たちが名札ケースにレインボーステッカーを挟み、アライであることを示すなど、子どもたちが日常的に多様なあり方に触れられる環境づくりが進められています。

今回は先生たち自身が研修を受け、児童たちへの授業を行うまでの半年間について、その変化と歩みをうかがいました。

*担当学年や実施月は2025年度のものです

(写真左から、柏木先生、加賀田先生、谷本先生、淺野校長先生)

【半年間の伴走スケジュール】
● 5月:初回打ち合わせ+年間スケジュール作成
● 8月下旬:ReBitによる教職員研修(三砂小の全教職員30名と他校の教職員30名の計60名が参加)

○研修内容
■子どもや保護者から相談やカミングアウトを受けた際の対応
■子どもたちが経験しやすいSOGIEに関する困りごとと起きやすい場面
■相談をしなくても子どもたちが安心できる環境づくりの進め方

● 9月上旬:進捗確認会議(多様な性のあり方を包摂した環境づくりに向けた取り組みのセルフチェック)
● 9月以降:多様な性のあり方を包摂した環境づくり(相談しなくても困りにくい取り組みの実施)
● 11月:児童向け授業実施に向けた教職員向けの模擬授業
● 12月:児童向け授業(5年生3クラス)

「いつかやりたかった」を、外部との連携で形に


――こちらの学校に初めてうかがったとき印象的だったのは、校長室の掲示物などがすでに6色のレインボーカラーで彩られていることでした。淺野先生は校長というお立場ですが、これまでどういった経緯で、多様な性のあり方に関する取り組みを進めてこられたのですか?

淺野先生(校長):
ずっとやらなきゃいけないと思っていたことだし、やりたかったことでした。私にはLGBTQ当事者の友達がたくさんいます。みんな揃って口にするのは「教育が大事だ」ということ。自分の性のあり方に関する悩みのために不登校になったり、理解されず辛い思いをしたりする子どもをなくしたい、校長という立場になったらそんな学校をつくりたいと考えていました。

ただ、一人だけで進めると「校長のわがまま」になりかねません。今回、ReBitさんのような外部専門機関に入っていただけたので、先生たちの中で「本当に必要なことなんだ」という信頼感が増したり、客観的なデータの裏付けが加わったりしました。この半年間は私自身も「ひとりぼっちじゃない」と感じながら、他の先生たちと一緒に進めることができました。


誰でも手に取れる場所に「にじいろ本だな」を設置



――多様な性のあり方を包摂した環境づくりの一環として、図書室に「にじいろ本だな」も設置されているそうですね。子どもたちが見やすい場所に常設コーナーをつくっていただけることは、性のあり方に関わらず、すべての子どもたちが正しい情報にアクセスできる権利を保障することにつながりますよね。

淺野先生(校長):
「みんながそのままのじぶんを、まわりのひとをたいせつにできる、そんなせかいにするための本だな」という想いを込めて、多様な性に関連する書籍を集めた「にじいろ本だな」をつくっています。子どもたちがいつでも自由に、多様なあり方に触れられる場所があることはとても大切です。この「にじいろ本だな」の取り組みは、今では他の学校にも広がり始めています。本を通じて、子どもたちだけでなく、先生たちのアンテナもより敏感になっていくのを感じています。

多様な性のあり方をについて、先生自身が子どもたちに教える難しさ



――12月にはReBitの教材を使用して、実際に小学5年生向けの授業を行っていただきました。今回先生たちが授業するにあたって、大変だったのはどのような点でしたか?

谷本先生(5年2組担任):

自分が体験していないことを代弁する形になるため、子どもたちに他人事として伝わっていないかどうかが心配でした。教材の研究はできても、人の気持ちそのものを研究し尽くすことは難しく、実体験として語れない部分を正確に伝えるのには苦労しました。そのため、授業では、ReBitが提供している『Ally Teacher’s Tool Kit 小学校高学年で授業しよう編』にある、当事者のライフストーリーが語られている動画を活用しました。当事者の方が自分の言葉で語る姿を見せることで、私が代弁するだけでは伝わりきらない想いや体験を、子どもたちが直接知ることができたと感じています。

――今回の研修や2学期以降の「多様な性のあり方を包摂した環境づくり」の実践を通して、先生ご自身にはどのような変化がありましたか?

柏木先生(5年1組担任):

自分の中の人権感覚をアップデートする必要性を痛感しました。自分自身の感覚が更新されていないと、いくらよい教材があっても台無しにしてしまいます。私の場合、以前は無意識に「男子、重い荷物を運ぶの手伝って」と声をかけていましたが、今は「力持ちさん、来て」と言い換えるよう意識しています。多様な性のあり方について、まず自分が知ることで子どもたちの声をより深く聞けるようになり、傷つく人がいそうな発言に対しても「それは違うんじゃない?」と、自信を持って子どもたちに伝えられるようになりました。

加賀田先生(5年3組担任):
私は今回の研修を通して、自分が「当たり前」だと思っていたことが、誰かにとっては「気になること」なのだと知りました。性的指向、つまり、どんな性別の人を好きになるか、ならないかという話がそのひとつです。実は以前、私には「性的指向について、子どもたちの前で話すのはタブーではないか」という思い込みがありました。でも、いざ授業で当事者の方の動画を一緒に見たとき、子どもたちの反応は驚くほどニュートラルだったんです。「笑ってしまう子がいるかも」という私の心配は杞憂でした。タブーにせず「正しく知る」ことの大切さを、私自身が子どもたちから教わった気がします。

谷本先生(5年2組担任):
私は、学校外のことにも関心が向くようになりました。例えば外出先のトイレがどのように分けられているかを意識するようになるなど、多様な性のあり方について学んだことで、自分の視点そのものが大きく変わりました。

――谷本先生は人権教育担当ですが、今回の研修やその後の取り組みのリーダーを任命されたとき、どう思いましたか?

谷本先生(5年2組担任):

正直、最初は「えっ、どうしよう!」と思いました。これまで多様な性のあり方に関する研修を受けたこともなかったですし、身近にカミングアウトをしている当事者の方がいたこともなかったので。でも、ReBitさんの研修を受けていく中で「これは学校全体で取り組まないと解決しないことだ」と気づきました。人権教育担当の私だけが一人で頑張るのではなく、みんなが同じ方向を向いて取り組まないと、結局誰かが傷ついてしまう。だからこそ、この一年は「みんなで」取り組むことを何より大切にしてきました。たとえば、教職員アンケートを複数回実施して、環境づくりの進捗を確認したり、先生たちの悩みをお互いに共有したりしました。回答結果はReBitさんにもその都度お伝えし、私たち教員がハードルに感じていることについて、定期的にフィードバックを受けながら、校内で取り組みを進めてきました。

「さん付け」や「班決め」……日常に浸透する変化



――夏休みの教職員研修後、実際にできる工夫を先生たちに進めていただきましたが、子どもたちに何か変化はありましたか?

柏木先生(5年1組担任):

私のクラスでは「さん」付けでの呼びかけを始めた当初、子どもたちは「自分が呼ばれているの?」とキョロキョロしていました。しかし今では、その「さん」付けも完全に浸透し、当たり前の風景になりました。いざやってみたら、難しいことではありませんでした。

加賀田先生(5年3組担任):
私のクラスでは、社会科見学の班決めをする際、従来の「必ず男女混合の班にする」ではなく、「自分はどこを見学したいか」という子どもたちの興味関心をもとに分けるようにしました。子どもたちはそれを自然に受け入れ、意欲的にグループをつくっていました。

谷本先生(5年2組担任):
私のクラスでは、子どもたち同士で「その分け方は(多様な性の授業で学んだことと)違うんじゃない?」と気づきを共有する場面が増えました。私が「旦那さん」や「夫」ではなく、「パートナー」という言葉を意識的に使うようになると、子どもたちも「先生のパートナーさんって」と言ってくれたりして、自然に使ってくれるようになりました。教員が気をつけている言葉は、子どもたちにもしっかりと伝わっていくのだと感じています。


これから一歩を踏み出す先生方へ


――おわりに、これから取り組みをしたいと考えている先生たちへのメッセージや、今後、アライ先生として実践していきたいことについてお話しいただけますか?

谷本先生(5年2組担任):

多様な性に関することは、子どもたちにとって、今まさに直面している身近な人権課題です。実際に困っている子がたくさんいます。教員はそこに寄り添い、助けるのが仕事です。先生に戸惑いがあっても、ぜひ一歩を踏み出して「知ること」から始めてほしいです。

加賀田先生(5年3組担任):
子どもたちは私の想像を超えて、とてもニュートラルに受け止めてくれました。多様な性に限らず、子どもたちに恐れずに伝えていける教員でありたいと思っています。まずはやってみること、その中で自分も知ることが大切かなと思います。

柏木先生(5年1組担任):
以前から「人のあり方に口を出すものではない」と子どもたちに伝えてきましたが、今回の取り組みの中で、自信を持ってそれを貫けるようになったと思っています。これから先の教員生活の中でもぶれずに伝えて続けていきたい、私の一つの柱になったと思います。

淺野先生(校長):
私は、ひとつでも多くの校長室をレインボーにしていきたい、仲間を増やしたいと思っています。他校の校長先生から「どう取り組めばいいかわからない」と相談を受けたこともあります。ぜひ私たち三砂小の事例を参考にしていただき、こうした輪が全国各地に広がっていくとうれしいです。

ーー今日は本当にありがとうございました。ぜひこれからも取り組みを続けてください!



先生だからこそ、変えられる未来がある


LGBTQをはじめとした多様な性のあり方をもつ子どもたちは、どの教室にもいる可能性があります。子どもたちにとって一番身近な大人である先生が「ありのままのあなたで大丈夫!」というメッセージを、日頃の声かけや環境づくりを通して発信し続けていただくこと。それは、子どもたちの現在、そして未来を守ることに直結しています。

「先生だからできること」「先生にしかできないこと」。 その第一歩は、まず大人が正しく知ること、そして学校全体で「みんなで」歩み出すことから始まります。三砂小の取り組みは、「特別な学校」の「特別な先生たち」によるものではなく、どの学校でも今日から始められる希望のモデルです。

後編では、三砂小の具体的な取り組みについてご紹介します。


あなたも今日から「アライ先生」に


この記事を読んでくださっている先生方にも、ReBitの研修や伴走支援をきっかけに、ぜひアライ先生になっていただきたいです。子どもたちや保護者からの相談に対する適切な対応方法や、そもそも相談しなくても安心して過ごせる環境づくりについて、ぜひいっしょに学んでみませんか? 全国各地の学校において、LGBTQも含めたすべての子どもがありのままで過ごせるよう、多様な性のあり方を包摂した学校環境づくりを実践してくださる先生を募集中です。ぜひお気軽にお問い合わせください。

ReBit教育事業部 メールアドレス: education@rebitlgbt.org
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